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建築と社会に寄稿しました

日本建築協会発行の「建築と社会」2024年11号に「パラメトリックデザインで広がる建築の未来」という内容で寄稿しました。

パラメトリックデザインで広がる建築の未来

~ユーザーフレンドリーなツールと創造性が生み出す新たなデザインの可能性~

■パラメトリックデザインの可能性とは

  • 自由で複雑な形状を実現する新たな手法

パラメトリックデザインは、現代建築における創造性を根本から変える革新的な手法として、広がりを見せている。これまで手作業では困難であった複雑で有機的な形状や構造を、コンピュータによるパラメトリック制御を活用することで容易に実現できるようになった。この技術の発展により、従来の制約から解放され、自由な発想で多様な建築物を設計することが可能になってきている。

例えば、曲線や非直線的な形状、あるいは幾何学的に複雑なパターンを持つ建物のデザインは、以前は手間とコストがかかり、実現が困難であった。しかし、パラメトリックデザインの手法を用いることで、これらの複雑な形状をアルゴリズムによって制御し、効率的かつ精密に設計することができる。さらに、こうしたデザインは建築美にとどまらず、構造的な合理性や持続可能性に寄与することも可能であり、機能性と美しさを兼ね備えた新たな建築表現が次々と生まれている。

  • リアルタイムフィードバックによるイテレーションの加速

パラメトリックデザインの最大の強みの一つは、リアルタイムにパラメータを変更し、その結果を瞬時に可視化できる点にある。この特性により、設計者は形状の変化や性能評価、解析結果をすぐに確認することができ、即時フィードバックを得ることが可能となる。このフィードバックループの短縮によって、従来よりもはるかに多くのイテレーションを迅速に行うことができるため、設計の精度と創造性が飛躍的に向上する。

従来の設計プロセスでは、パラメータを変更するたびに再計算や再レンダリングが必要であり、解析結果を確認するまでに時間がかかることが多かった。これに対し、スライダーを動かすたびにリアルタイムでの形状の変化と性能値の即時表示が可能であるため、設計者はデザインの改善や調整を素早く行い、短時間でより多くの代替案を試すことができる。このリアルタイムでのフィードバックは、単にデザインの視覚的な確認にとどまらず、構造的な性能評価や解析結果にも適用される。

■連携によるパラメトリックデザインの進化

  • リアルタイムなデザイン・解析の融合

建築設計者と構造設計者のコラボレーションは、プロジェクト全体の成功にとって極めて重要である。パラメトリックデザインを導入することで、この連携はさらに強固かつ効率的になる。建築設計者がデザインしたパラメトリックモデルと構造設計者が用いる解析プログラムを連動させることで、設計と構造解析のプロセスがリアルタイムで密接に結びつき、総合的なデザインが実現できる。

たとえば、RhinoとGrasshopperといったプラットフォームを活用することで、建築設計者のデザイン意図や形状の制約を保持しつつ、構造的なパラメータを動的に調整できる環境が整う。このシステムでは、設計者が込めた美的な要素を損なうことなく、構造設計者が解析を通じて強度や機能性を確保することが可能となる。このように、デザインと構造解析がリアルタイムで相互に作用することで、建築プロジェクトの進行はより効率的で包括的なものとなる。

  • パラメトリックデザインのプロセスと働き方の変化

パラメトリックデザインのプロセスは、大きく二つに分かれる。まず、設計のルールを定義し、それに基づいてパラメータを設定する作業がある。次に、これらのルールに従って生成されたパラメトリックモデルから、最適なパラメータを決定する作業である。この際に、建築設計者と構造設計者が密に協力し、パラメータの選定と決定を行うことが、プロジェクトの成功にとって重要となる。このプロセスによって、形状やデザインの美しさだけでなく、構造的な安定性や機能性、環境性能、コストなど、さまざまな要素を考慮した最適なパラメータを導き出すことが可能となる。

従来の設計方法では、設計と構造がそれぞれ独立して進行し、最終的に調整が必要になるケースが多かった。しかし、パラメトリックデザインとリアルタイム解析を組み合わせることで、設計初期段階から両者が協力し合い、スムーズにプロジェクトを進められるようになる。このコラボレーションによって、設計から構造解析まで一貫して効率化され、全体のプロセスが円滑に進行する強力な手段となる。計算速度といった技術の発展ばかりが注目されがちであるが、技術の進化によって人々の働き方がどのように変わるかにも注目する必要がある。新たなツールやコラボレーションプラットフォームが整備されたことにより、建築設計や構造設計の現場において、従来とは異なる形での連携が可能となった。この変化は、デザインの質を向上させるだけでなく、業務の進め方そのものを効率化し、多様な視点を取り入れた柔軟なコラボレーションを実現するものとなっている。技術の進歩に目を向けることは重要であるが、それと同時に、人々の働き方がどのように進化しているかに着目することが、今後の建築や未来を考える上で不可欠である。

 

■ユーザーフレンドリーなツールの可能性

  • 再現性と再利用性がもたらす利点

プログラムの利点である「再現性」を活かし、一度作成したプログラムを参考にして新しいプログラムを組むことが可能であり、再利用性も非常に高い。これにより、一つのプロジェクトに限らず、異なるプロジェクトでも繰り返し活用できるのが大きな特徴である。さらに、ユーザーが簡単に操作できるインターフェースを用意することで、RhinoやGrasshopperの詳しい知識がなくても、一連の操作手順さえ習得すれば、他の人が作成したプログラムをプロジェクトに適応できるという利点がある。これにより、パラメトリックデザインの深い知識を持つ人が考案したモデルの恩恵を、より多くの人々が享受しながらデザインに取り組むことができるようになる。

この方法を活用すれば、アルゴリズムの詳細にこだわることなく、プロジェクトに対するソリューションの提示に集中できる。したがって、設計のプロセスが効率化され、より創造的で実用的なデザインに取り組む環境が整うことになるのである。

  • ツールデザインの重要性

パラメトリックデザインにおいて、実務での効率的な活用を考えた際、ゲームエンジニアリングの分業体制と同様のアプローチが必要とされている。ゲーム業界では、個々のゲームを作るエンジニアと、ゲーム制作のためのツールを開発するエンジニアが明確に分業されている。これと同じように、建築においても、実際にパラメトリックモデルを用いて建築プロジェクトを実践する設計者と、その実践を支えるために使いやすいツールを開発するツール開発者の役割が重要視されている。

ツールを設計する側は、複雑なモデルを簡単に操作できるように設計し、設計者がパラメトリックモデルを活用しやすい環境を整えることが求められている。

 

  • 教育の重要性とパラメトリックデザインの普及

パラメトリックデザインの可能性を最大限に引き出すためには、その知識と技術を普及させるための教育が欠かせない。しかし、パラメトリックモデルを実務に役立てるハードルと、ゼロからアルゴリズムを組むことには大きな差があり、学習コストが非常に高いという現実も無視できない。高度なツールやプログラミングスキルが必要であり、初学者にとっては特に困難に感じられることが多い。

それでも、専門的なトレーニングや教育を通じて、設計者がこの技術を習得すれば、従来の方法では難しかった形状や構造を効率的に作り上げることが可能となる。また、ユーザーフレンドリーなツールが整備されれば、これまでパラメトリックデザインに触れてこなかった人々にもその技術が広がることが期待される。教育とツールの整備による技術の普及は、建築やデザインの未来に向けた大きな一歩となるのである。

  • 未来のパラメトリックデザインと業界への影響

パラメトリックデザインの進化と、それに伴うツールデザインの発展は、今後の建築業界に大きな影響を与えるだろう。ツールの整備により、パラメトリックデザインがより広く普及することで、これまで専門知識が必要とされていた複雑な設計プロセスが簡便化され、より多くの設計者が参入できるようになる。結果として、多様なデザインアプローチが生まれ、クリエイティブな建築デザインの可能性がさらに拡大する。